1社ずつ受けている人、けっこういます。不安だから、そうなります。

第一志望から順番に、落ちたら次。丁寧に見えるし、気持ちも分かる。ただ実務としては、これがいちばん損をします。

理由は2つあります。全部終えるのに時間が3倍かかること。それから、比較する相手が手元にない状態で内定の返事を迫られること。特に後者がきつくて、条件に引っかかる点があっても他に何もないと、人はどうしても飲んでしまいます。私は採用側で面接日程を組み、内定の返事を待つ側にいました。エージェント時代は候補者側の日程を組む側でした。ここでは並行応募でつまずくのは実力ではなく日程管理だという話を、両側の事情から書きます。

何社受けるか。同時進行は3〜5社が回る

いきなり数から書きます。

書類を出すのは同時に5〜10社。面接が同時に走るのは3〜5社。これを超えると、平日の夜と土曜だけで日程を捌かないといけない在職中の人は、面接の準備の時間がまるごと消えてまず回らなくなります。

並行の目安(在職中の場合)

1 書類提出 同時に5〜10社。落ちる前提なので、ここは多めでいい 2 一次面接 同時に3〜5社。平日夜と土曜で捌ける限界がこのあたり 3 最終面接 同時に2〜3社。ここを揃えられると、比較して選べる

多ければいいわけではありません。10社の面接が同時に走ると、志望動機がどれも薄くなります。会社ごとの求人票と面接で聞いた話が頭の中で混ざって、面接の途中で別の会社の事業の話をしてしまう人を私は何人か見ました。本人は真っ青になる。

あれは事故です。

取り返しがつきにくいので、社数は意識して絞ったほうがいい。

選考スピードと内定の時期を揃える実務

会社によって選考の速さが違いすぎることが、並行が崩れる最大の原因です。

同じ日に書類を出しても、1週間で内定が出る会社と、6週間かかる会社があります。この差は候補者の評価とほとんど関係がなく、社内の決裁の形が違うだけです。私が見てきた範囲だと、だいたいこの3要素で決まります。

  • 面接の回数(2回か3回か。役員が入ると1段増える)
  • 決裁者の忙しさ(役員面接の空きが2週間後、はよくある)
  • 人事の体制(採用担当が1人だと、日程調整だけで数日進む)

だから「連絡が遅い=脈がない」ではないんです。社内で書類が止まっているだけのことが本当に多い。この話は選考結果が遅い理由に詳しく書きました。

比較して選びたいなら、内定の時期を揃える必要があります。揃えるコツは1つで、遅そうな会社から先に応募することです。

応募の順番。よくある失敗と、揃うやり方

よくある失敗 第一志望から順に1社ずつ受ける 志望度が高い順に応募する 全部同じ日に一斉応募する 内定が出てから他社に応募し始める 揃えるやり方 選考が長そうな大手・役員面接ありから先に出す 志望度ではなく、選考スピードの遅い順に出す 早そうな会社は1〜2週間ずらして出す 本命の一次面接が入った時点で、他社も動かしておく

右の3つ目が地味に効きます。中小やベンチャーは書類から最終まで2週間で駆け抜けることがあるので、志望度が高くてもあえて1〜2週間後ろにずらして出したほうが、結果として全部を並べて選べる形になります。もちろん読み切れないこともあるので、ズレたときの対処を次に書きます。

ズレたとき。待ってもらうのは、思ったより普通です

先に内定が出て、本命がまだ二次。これが一番よくある詰まり方です。採用側にいた実感を書きます。

返事を待ってほしいと言われるのは、日常です。私たちが困るのは待たされること自体ではなく、いつまで待てばいいのか分からないまま連絡が途切れて、他の候補者への対応も決められなくなることのほうです。

「他社の選考が来週の最終なので、そこまでお時間をいただけませんか」。この一言で、たいてい通ります。1週間なら、そんなに珍しい話じゃありません。

もう1つ、逆側の手も使えます。本命の会社に「他社から内定が出ていて、返事の期限が◯日です」と伝えること。駆け引きに見えそうですが、実際には日程を前倒しする理由をこちらに渡しているだけです。人事は社内で「この候補者は期限があるので最終を前倒ししたい」と動けるようになる。私も採用側で、この連絡をもらって役員の予定を押さえ直したことが何度もあります。嫌な気持ちにはなりません。むしろ助かる。

ただ、期限を盛るのはやめたほうがいいです。実在しない期限を伝えると、こちらは本当にその日までに社内の決裁を通そうとして動きます。あとで日程が合わなくなったとき、辻褄を合わせるのは自分です。信用の話でもある。

並行応募でこじれるのは、たいてい日程の一点(写真はイメージ)
並行応募でこじれるのは、たいてい日程の一点(写真はイメージ)

面接と窓口で気をつけること

「他社の選考状況は」という質問について。 身構える人が多いですが、怖がらなくていいです。落とすための質問ではありません。聞いている目的は主に2つで、日程の把握と、応募先の並びから会社選びの軸が一貫しているかの確認です。だから正直に答えて問題ありません。

答え方は3つ揃えば十分です。

  1. 何社くらい受けているか(社名は言わなくていい)
  2. どの段階まで進んでいるか(一次、最終、内定など)
  3. その並びが、自分の軸で説明できること

3つ目が本題です。業界も職種もバラバラだと、こちらは軸を読み取れません。方向が揃っていれば、それ自体が定着の材料として効きます。定着は転職回数ではなく、軸の一貫性で見られやすいので。軸の作り方は転職の軸のつくりかたへ。

エージェント経由と直接応募を混ぜるときの注意点。 窓口が混ざると事故が起きます。よくあるのは、同じ会社にエージェント経由と直接応募の両方で出してしまうケースです。これは先に出したほうが有効になるのが一般的で、後から出したほうが宙に浮きます。企業側から見ると、どの経路の候補者なのかで紹介手数料の扱いが変わるので、社内で確認が入って選考が止まります。止まっている間、候補者の側からは「連絡が来ない」ようにしか見えません。実際には社内で経路の確認をしているだけなのに、本人は落ちたと思って気持ちが折れていく。

対策はシンプルです。

応募した会社を1枚の表にしておくこと。会社名、応募経路、応募日、進捗、次の日程。スプレッドシートで十分です。表に何の欄を作るかだけ迷うなら、内定・オファー確認シートの「複数社で迷ったときの比較欄」をそのまま列にしてください。応募経路の重複を防ぐ欄も入れてあります。

私はエージェント時代、この表を作っている候補者は動きが速いなと感じていました。判断そのものが早いというより、次に何をやるかを毎回ゼロから考え直さなくて済むぶん、迷っている時間が短いんですよね。1週間の差はここで生まれます。

最後に。並行は、心を守るためでもあります

実務の話ばかり書いてきましたが、並行応募のいちばんの効き目はたぶん別のところにあります。

1社に全部を賭けると、落ちたときのダメージが直撃します。悔しいし、恥ずかしいし、自分が否定された気になる。私はエージェント側で、本命に落ちてそのまま活動が止まってしまう人を何度も見てきました。数ヶ月動けなくなる人もいます。3社走っていれば1社落ちても手元に2社残るので、それだけで次の面接に行く足がずいぶん軽くなる。

比較できると、断る判断もしやすくなります。手元に1社しかない状態で条件に納得できない内定を前にすると、これを逃したら次はないかもしれないという考えが必ず頭をよぎって、判断が自分のものでなくなります。並行は交渉のためというより、冷静さを保つための装置だと思います。

内定が複数出たあとの話は内定の返事の期限と年収交渉へ。工程全体の地図はこちら。