「人事 辞めたい」で検索してここに来た方へ。今日、結論を出す必要はありません。
私は以前、転職エージェントで働いていました。「辞めたい」がピークの状態で面談に来る人を、それなりの数見てきた側です。その後、自分も転職しました。今は採用する側の人事をやっています。この記事は「辞めましょう」とも「続けましょう」とも言いません。辞めたい理由をほぐす整理と、もし職種を変えるなら人事経験がどこで活きるのか、という材料だけ置いておきます。急がなくていいので、材料だけ持ち帰ってください。
「人事を辞めたい」には、種類がある

人事の「辞めたい」は、私の見てきた範囲だと、だいたい3種類に分かれます。
ひとつは板挟み疲れ。経営の代弁者として社員に嫌なことを伝え、社員の声を経営に上げても通らない。どちらの味方でもあるはずが、どちらからも味方と思われない。この疲れは人事特有です。
それから、成果の見えなさ。営業なら数字が出ます。人事は、うまくいっているときほど「何も起きない」のが成果です。評価されにくい構造の中で、自分の存在意義がわからなくなる。
最後に、会社への失望。人事は会社の意思決定の内側が見えすぎる仕事です。採用で語る理想と、中で行われる現実のギャップを、一番近くで見続けることになる。
どれかによって、取るべき行動は変わります。板挟みと成果の見えなさは「人事という職種」の問題ではなく「今の環境」の問題であることが多い。会社への失望は、職種を変えても次の会社でまた起きえます。辞めたいのは「人事」なのか「今の会社」なのか。エージェント時代の実感としても、ここを切り分けずに転職した人は次でも同じ理由で悩みがちでした。
人事経験者の市場価値は、たぶんあなたが思っているより高い

辞めたい渦中にいると、自分の経歴が安く見えます。これは断言しますが、渦中の自己評価はほぼ確実に実際より低い。私自身、転職を考えたときにそうでした。
市場のデータも逆のことを言っています。転職求人倍率は2.44倍(doda・2026年5月)。人材サービス業に限ると7.41倍(2025年6月時点)で、全体平均の3倍の水準です。構造的な話をすると、2030年に約341万人、2040年には約1,100万人の労働供給不足が予測されています(リクルートワークス研究所「未来予測2040」2023年9月)。「人が採れない・辞めていく」が全企業の経営課題になる時代に、人と組織のことを実務でやってきた人の経験は、職種の外でも使い道が広い。
人事経験が活きる異職種5つ
その上で、職種を変えるならどこか。人事の実務と地続きな順に並べます。
1. 人材業界(キャリアアドバイザー・RPO)。 一番近い隣町です。採用実務の経験がそのまま商品知識になります。RPO(採用代行)市場は2022年度に約706億円、2025年に1兆円規模への成長が予測されている領域で(矢野経済研究所)、「企業側で採用をやっていた人」はまさに求められる経歴です。ただ、エージェント側にいた人間として正直に言うと、支援する側には「決めるのは自分ではない」というもどかしさが常にあります。
2. HR SaaSのカスタマーサクセス。 労務管理やタレントマネジメントのツールを、導入企業の人事に使いこなしてもらう仕事。「人事の業務がわかる」ことが最大の武器になります。人事あるあるの解像度が、そのまま顧客への提案力になる。
3. 広報・採用広報。 採用で「会社の魅力を言語化して伝える」をやってきた人は、広報の入口に立っています。社内の情報を集めて外に翻訳する動き方も、人事と広報はよく似ています。
4. 営業(無形商材)。 意外に思われますが、採用は「会社を候補者に売る営業」です。口説く、見極める、条件を調整する、断られる。成果が数字で見える世界に行きたい人には、むしろ合うかもしれません。
5. 独立系の道(社労士・人事コンサル・複業人事)。 労務経験が長いなら社労士、制度設計の経験があるならコンサル。ただしこれは「辞めたい」の解決策というより長期の選択肢なので、疲れている時に飛びつく道ではないと思います。
焦っている時にやらないほうがいいこと
エージェント側と採用側の両方から、同じ光景を見てきました。「辞めたい」がピークの時に応募を始めると、選考の場で「逃げたい」が透けます。面接官はそこを見ています。人事のあなたなら、見る側として身に覚えがあるはずです。
順番としては、先に情報だけ集めるのがいい。転職サイトやスカウトサービスに登録して求人を眺めるのは、応募ではありません。上の5つの職種の求人票を実際に読んで、「これなら自分の経験をこう説明できる」と思えるものがあるか確かめる。市場を見ると、不思議と今の職場も少し冷静に見えるようになります。辞める・辞めないの判断は、その後でいい。
最後に、問いをひとつ渡して終わります。もし今の会社で、部署も上司も自由に選び直せるとしたら、それでも人事を辞めたいですか。「それでも辞めたい」なら職種を変える検討を。「それなら続けたい」なら、変えるべきは職種ではないんだと思います。
出典: doda転職求人倍率(2026年5月)/業種別転職求人倍率(2025年6月時点)/リクルートワークス研究所「未来予測2040」(2023年9月)/矢野経済研究所(RPO市場規模)