エージェント時代、求職者の「あと50万上げてほしい」を企業の人事に伝える係をやっていました。何十回も運んだ中で気づいたのは、通るかどうかは伝え方でほぼ決まっていないということです。決まっているのは、その人がどの「枠」で採用されようとしているか。もっと手前の話で、年収を上げたい人がまず知るべきは交渉術ではなくこの枠の構造だと思っています。間に立って見てきたケースを振り返ると、「上がった」と言えるものはだいたい3つのどれかでした。

年収が上がる転職、3つの型

年収が上がる転職の3つの型

1 業界を変える 同じ仕事でも、儲かる業界に移ると給与テーブルごと変わる 2 評価される場所を変える 今の会社で当たり前のスキルが、よそでは希少というズレを使う 3 採用枠の等級を上げる メンバー枠でなく、リーダー・専門職の枠で採られる

3つに共通しているのは、「本人の能力が急に上がった」わけではないという点です。同じ人のまま、値段のつく場所と枠を変えている。同じ業界・同じ役割・同じ等級のまま横に移る転職では、よほどのことがない限り給与は大きく上がりません。今の給与を基準に「ちょっと足した額」が提示されて終わり、という案件を私は何十件も見ました。50万の上乗せがやっとで、頑張って伝えても動かない額を前に悔しい思いを何度もしました。

ちなみに国の統計でも、転職で賃金が増えた人はおおむね3人に1人前後で推移しています(厚生労働省「雇用動向調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/ )。転職すれば上がる、ではないんですよね。上がる型に乗った人が上がっている。

提示額は「あなたへの評価」ではなく「枠の予算」

採用側の人事もやっていたので、値段が決まる瞬間の内側も書けます。求人には最初から予算帯があって、この職種のこの等級なら500〜600万というような帯が設定されています。オファー額はその帯の中で現年収と社内の同等級の人との釣り合いを見て置かれる。あなたの人間的な価値を査定した結果ではなく、帯の中のどこに置くかという事務作業に近い話です。

これで起きることが2つあります。帯の上限を超える交渉は、担当者がどんなに頑張っても通りません。枠を作り直す決裁が要るから。この構造は年収交渉の記事で詳しく書きました。もうひとつ、低い帯の求人に応募した時点で、上限が決まっています。 応募前に勝負がついていて、交渉が始まる頃には動かせる幅がもう小さいんです。

エージェント経由の交渉、内側はこうなっている

エージェントは年収交渉を「代わりにやってくれる」存在とよく言われますが、中の人として半分だけ本当と言います。私たちの報酬は決定年収の3割前後の紹介手数料なので(仕組みの記事参照)、年収が上がると手数料も増えます。利害はあなたと同じ方向を向いているので、ここは安心していい。

それより強い利害があって、決まらないと売上がゼロなんです。だから強気の交渉で内定が崩れそうになると、エージェントはあなたを説得する側に回ることがある。「この額でも相場的には悪くないですよ」と。私も言ったことがあります。あれには会社の都合が入っていました。エージェントの交渉力をあてにするより、上がる枠の求人に最初から乗るほうがずっと確実です。

枠のある求人を持っている会社は業界で偏ります。エージェント診断の4問で、条件に合う候補が2〜3社出ます。

年収の帯で求人件数を公開している会社もあります。JAC Recruitmentは600万円以上が58,098件、1,000万円以上が29,987件(2026-08-06に当サイトが確認)。年収の選択肢の下限が500万円のため、いまそこに届いていない人には使えない見方です。

で、何をするか

年収を上げたい人の力の入れどころ

効きにくい努力 オファー後に粘り強く交渉する 同業同職種で提示額だけ比べる 年収の希望を面談で控えめに言う 効く努力 儲かる業界・希少になる場所を探す 応募前に求人の想定年収帯を確認する 希望額を最初から基準つきで伝える

右の3つ目だけ補足します。面談やスカウト登録で希望年収を低めに言うと、その額が紹介求人の基準になります。後から上げるのは難しく、現年収と希望額は最初から正直に出すのが結局いちばん得です。

どの枠で見られるかは書類で決まるので、職務経歴書がメンバーの書き方だとリーダー枠には乗れません。読む側の視点の記事とあわせてどうぞ。年収を上げる転職は、口のうまい人が勝つゲームではなくて、構造を知っている人が勝つゲームです。